私は、時折10分休みや昼休みに各教室に入ってみることがあります。生徒たちとたわいもない会話をするためです。雰囲気はクラスによって異なります。同じクラスであっても時と場合によって空気感が変わります。
もちろん、いさかいや口げんかも時に起こります。そんなときは教室全体がいやな空気になってしまうこともあります。しかし、どのクラスも総じて穏やかな良い雰囲気が漂っています。それは私に心地よさを感じさせます。
さて、この穏やかな雰囲気はどのように作りだされるのでしょうか。ふと、ある暑い日の朝の「できごと」を思い出しました。かなり前のことです。
白地に青のトラックが近くに止まっている。飛脚の宅配便のトラックだ。その車を起点に、一人の若い配達員が大小の荷物を台車に乗せ、何度も小走りで周辺の家に届ける作業を繰り返している。灼熱の暑さの中である。汗だくだ。
その日は朝から日差しが強く、立っているだけで汗が流れ出すほどの気温だった。私は目黒学院の校門に立って厳しい暑さに耐えながらお客様を出迎えていた。中学受験のための学校説明会があったのだ。
立っているだけでもその場から逃げだしたい状況。しかし、その配達員は重い荷物を押し走り回っているのだ。いくら仕事とはいえ、、、私は彼に同情の気持ちを抱き始めていた。
何度目かにちょうど配達員が私の横を駆け抜けようとした。その時だった、彼は私に言葉をかけてきたのだ。顔にめいっぱい私に対する同情の気持ちを浮かべ、「先生、こんな暑い中大変ですね。頑張ってください」と。
衝撃的だった。私よりはるかに大変な状況にありながら、自分の苦痛をアピールすることもなく、むしろ他人の私をやさしく気遣ってくれたのだ。実に驚いた。そして感動した。
『他人を思いやる気持ち』を含んだ言葉は最強です。人を嬉しくし気持ちよくし、感動さえ与えてくれます。本物の気持ちは相手に通じます。お返しにその相手に何かしてあげたくなります。最大限やさしく接してあげようと思わせてくれます。
生徒たちは優しく、どのクラスも良い雰囲気に包まれています。この良い雰囲気は、人を思いやる優しい気持ちの持ち主がいろいろな人と接触し、その気持ちが一人ひとりに感情伝染していき、徐々に出来上がってきたような気がします。